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レレレノレコード

―特別編―

Listen to the story of......

KLAUS SHULZE Timewind

(イ)
MUSLIMGAUZE

BETRAYAL


1993 staalplaat
ST CD058

<TRACKS>
Nabius [4'22"]
Bloodstain [6'06"]
Bloodstain [7'21";]
Druse [7'27"]
Druse [3'34"]
Nabius [5'58"]
Ramallah [10'24"]
Vensarka [6'15"]
Ramallah [11'29"]
Jaffa [6'15"]
Jaffa [7'00"]




FUN-DA-MENTAL Seize The Time

(ロ)
FUN-DA-MENTAL

SEIZE THE TIME


1994 Nation Records
NATLP 33


<TRACKS>
-Side 1-
Dog Tribe [5'39"]
Seize the Time [5'50"]
Mera Mezab [6'57"]
-Side 2-
President Propaganda [5'36"]
No More Fear [5'11"]
Dollars of Sense [6'152]
-Side 3-
Mother India [5'45"]
Mr Bubbleman [6'52"]
English Breakfast [5'00"]
-Side 4-
Bullet Solution? [5'53"]
Fartherland [5'59"]
New World Order [4'45"]
White Gold Burger [4'58"]




CIBO MATTO Viva La Woman

(ハ)
CIBO MATTO

VIVA LA WOMAN


1996 WamerBros. Records Inc.
1-45989


<TRACKS>
-Side 1-
Apple [3'59"]
Beef Jerky [2'25"]
Sugar Water [4'29"]
White Pepper Ice Cream [5'10"]
Theme [10'50"]
-Side 2-
Birthday Cake [3'15"]
Know Your Chicken [4'21"]
The Candy Man [3'12"]
Le Pain Perdu [3'27"]
Artichoke [6'38"]




MAMORU FUJIEDA Ecological Plantron

(ニ)
MAMORU FUJIEDA
YUJI DOGANE

ECOLOGICAL PLANTRON


1994 K-PLANNING LTD.
LMCD‐1420


<TRACKS>
Evening [18'08"]
Night [18'08"]
Morning [18'09"]
Afternoon [18'26"]
 「90年代」とはいかなる時代なのか?90年代半ば生きる我々にとって、その間いかけに答えるのは不可能である。
 しかしながら、過ぎ去った90年代前半を振り返り、訪れるであろう90年代後半を展望することは可能(というより我々に課せられた義務)であろう。この義務を全うせんと、「90年代のBESTアルバム」という問いに「90年代を語るBESTアルバム」というセレクトで答えたい。

 89年11月9日、ベルリンの壁が崩壊。そして90年代が始まった。ソ連崩壊、湾岸戦争、ユーゴ問題、中東和平、自社連立・・・・・・。90年代前半は「東西冷戦の終結とその結果」の時代であったということに異論はあるまい。

  (イ)MUSLIMGAUZEは『イスラムの大義』というその名前が示す通り、80年代より中東問題をテーマにしたアルバムを発表し続けているアーティストである。テクノ系ビーツ&パーカッションにアラビアン・ボイスが重なっていくという彼等の音楽自体に直接的なメッセージ力は無いが、中東問題を意識したジャケットや曲タイトル、そしてアルバムの片隅に記された「P.L.O.に捧ぐ」の文字。MUSLIMGAUZEのレコードは常に中東問題をテーマにしてきた。そしてその問題提起は鋭い。(例えば、87年のアルバム『ABU NIDAL[※]』ではその名も「湾岸戦争」という、予言めいた曲が入っている。)
 90年代に入りMUSLIMGAUZEは謎のアーティストの姿勢を保つたまま年に何枚ものアルバムを発表するようになる。そのアルバムラッシュのさなか、93年8月、中東和平成立。そして同年暮れにMUSLIMGAUZEが発表したアルバムが『Betrayal』である。 P.L.O.のアラファト議長とイスラエルの故ラビン首相がホワイトハウス前で握手をした、あの歴史的瞬間の写真を使ったジャケット。しかし、握手するアラファト議長の手の甲に小さく記された「Betrayal(裏切り)」の文字……。MUSLIMGAUZEの真意は計りかねるが、中東問題が未だ解決に時間と英知を要する状態にあることだけは、世界のEAST ENDに住む日本人も認識すべきであろう。

  (ロ)FUN-DA-MENTALはイギリス・バーミンガムを拠点に活動するラップグループ。イギリスのインド系住民の音楽は「バングラビート」と呼ばれ、80年代初頭に一大ブームになつたことがあるが、FUN-DA-MENTALはその第2世代というべき存在。
イギリスにおけるマイノリティであるFUN-DA MENTALが、デビューシングル『countryman/tribal revolution』で「listen to the story of an asianman・・・・・・」と歌い始めてから現在に至るまで執拗に発し続けるメッセージは、世界のマイノリティ問題(そして日本のマイノリティ問題)に対峙する上で、必ずや参考になるはずだ。94年の初来日公演に会社的事情で行けなかったのが今でも残念。

  (ハ)N.Y.のアンダーグラウンドシーンで活躍していた(らしい)キーボード奏者と、音楽経験は全くなかった(らしい)がたまたまN.Y.に住んでいた、という日本人(女のコ)2人が偶然に出会い結成したバンドのデビューアルバム。結成の経緯といい、「食べ物」をテーマにしたグループ名や曲名といい、捉えどころのない雑多なサウンドといい、CIBO MATTOは東西冷戦終結の影響が既成権力の崩壊又は弱体化という形で現われた現在の日本と日本人を象徴する(あるいはアダ花か?)グループに思える。ちなみにCIBO MATTOは現在もN.Y.在住です。念のため。

  (ニ)東西冷戦の終結は、世界に多くの平和と利益、そして同時に多くの崩壊と混乱をもたらし、現在に至るまで様々な影響を及ぼしている、アンビエント・ハウスやトランス・ミュージックの出現も、崩壊と混乱のなかで音楽のメッセージや目的が方向性を失い内面化したことと無関係ではないであろう。そのような音楽の極北がこのアルバム。藤枝守(現代音楽家)と、銅金裕司(植物学者)の2人の名前がクレジットされているが彼等は演奏者ではない。このアルバムの演奏者は「胡蝶蘭(コチョウラン)」。そう、植物のランである。このランが発する電気を葉の表面で捉え、マッキントッシュとシンセサイザーを通して音にしたのがこのアルバムなのである。究極のメッセージレス音楽。アンピエント・ミュージック。人間の脳波も 所詮電気。脳の電波を音楽にすれば、ブラックもホワイトもイエローも、ブッダもキリストもムハンマドも、あなたも私もショーコーも、きっとみんな似ているに違いない。いまだにくだらん争いを続ける世界の人々に、今―番聴かせたい音楽。
 ところでこの音楽、意外と激しい。電子音楽といえばそれまでだが、暴力温泉芸者の新譜といっても通用しそうな気がする。
 Listen to the story of a 胡蝶蘭。自然は征服できるものだと勘違いしている、あるいは自然は優しいものだとナメている人間に対し、植物は意外に多弁なのかもしれない。

以上、「私の選ぶ」という但し書きはもちろん入るが、「90年代を語るBESTアルバム」としたい。

HARUMO(identity market) 96/5/29

[※]ABU NIDAL =P.L.O.の穏健路線に反抗し分派したテロ組織「アブ・ニダル派」のリーダー。ミュンヘン・オリンピックでイスラエル選手村を襲撃したのがこの組織。P.L.O.穏健派の暗殺も手がけた。

<『KEROUAC Vol.4.1996』(1996.7.1発行)より転載、誤植箇所訂正>



●解説●
 『KEROUAC』は90年代半ばに発行されていた音楽専門のフリーペーパー。当時熊本パルコにあったCDショップの店長・吉武氏が編集し発行していた。 そして当時のオレは熊本に転勤したてのパルコの社員。関連会社の社員であり、同世代であり、そして共にDJもする・・・・・当然彼とは意気投合し、クラブイベントを共催するまでの仲となる。そして彼との出会いが『IM...identity market』創刊の間接的な契機ともなった。(このあたりの経緯については、いずれ『What's 'IM'?』コーナーで書く予定)
 その『IM』の創刊号の準備をしていた96年5月、アドバイザー兼MACオペレーターとしてお世話になっていた(ささやかな)御礼として、 『KEROUAC』に書いたのがこの文章だ。パルコの仕事以外では久し振り。しかも熊本に来てから初、identity marketの肩書きで書くのも初という文章なので、気合が入っている割に表現がぎこちなく、今になって読むとチト恥ずかしい。
 この文章は「90年代半ばに選ぶ90年代(1990-1999!)のベストアルバム」というテーマのもとで書かれているのだが、言葉足らずな箇所が目立つので、以下に補足を加えておく。

(イ)「故」の一文字で流してしまっているが、ラビン首相はこの半年前に暗殺されている。このぐらいの出来事は知ってて当然という東京人的高慢チキがまだ抜けておらず、ココは非常に恥ずかしい。
 MUSLIMGAUZEについては、この後99年に中心人物Bryn Jonesが病死するも、その頃から日本でもクラブを中心に注目されるようになり、今では熱狂的なファンも少なくない。またアルバムの大量リリースも今なお続いている。
 蛇足ながら、オレはかつて有線の番組で文中の「湾岸戦争(原題Gulfwar)」という曲を紹介したことがある。 1991年3月、湾岸戦争直後のこと。有線といえども全国ネットでMUSLIMGAUZEを流したのはオレが最初だったかもと、今更ひとりで誤満悦。
 オフィシャルHP=http://www.muslimgauze.info/

(ロ)『countryman/tribal revolution』を「デビューシングル」と記しているが、これは間違い。オフィシャルHPによると、これ以前に3枚の12"シングルをリリースしている。
 イギリスのインド移民系音楽は、この後FUN-DA-MENTALと同じNation RecordsからデビューしたASIAN DUB FOUNDATIONの大ブレーク、そしてTalvin Singh(タルヴィン・シン)の出現によりメジャーなものとなっていく。
 なおFUN-DA-MENTALは、レコードのリリースは低調なものの、今なお健在である。
 オフィシャルHP=http://www.fun-da-mental.co.uk

(ハ)当時はボアダムス、少年ナイフ、バッファロードーターなど日本のインディーシーンから海外に直接進出し成功をおさめるグループが相次ぎ話題となっていた。だがCIBO MATTO(チボ・マット)の場合は最初から日本の音楽シーンとは無縁・・・いや、無縁というよりもハナから日本とは関係ない海外のバンドと見なすべき存在であった。ゆえにCIBO MATTOに「現在の日本と日本人を象徴」させたのは明らかに書き過ぎ。よってこのくだりはテキトーに無視して下され。
 その後CIBO MATTOはThe Beastie Boys(ビースティ・ボーイズ)やRussell Simins(ラッセル・シミンズ:Beastieと並べると大変紛らわしいが、Def Jam創設者にしてヒップホップ業界重鎮のRussell Simmonsではなく、The Jon Spencer Blues Explosionの人)などの旬なミュージシャン達との交流やコラボレーションによって株を上げ、さらにキーボードの本田ゆかとショーン・レノンとの交際によって芸能面も制覇。ここ数年は休止状態だが、ミュージシャンとしての評価を確立した本田ゆかはJohn Zohn(ジョン・ゾーン)周辺で活動し、ソロアルバムもリリース。一方の羽鳥美保はBlur(ブラー)のリーダーが作ったGorillaz(ゴリラズ)というバンドに参加したが、このGorillazがセールス数百万枚と大ブレイク。またBeck(ベック)のメンバーとユニットを組み、最近アルバムもリリースしたようだ。なおボーカルの羽鳥美保はCIBO MATTO参加前に「音楽経験は全くなかった」わけではなく、アマチュアとして少しはあったようだ。
 CIBO MATTOについては、ワーナーブラザーズのサイトがまだ生きている。
 http://www.wbr.com/cibomatto

(ニ)サイケデリックからサイバーまで現在はジャンル分けされてしまったトランスだが、当時はまだ今で言うところのゴア・トランスしか認知されておらず、文中の「トランス」も当然これを指している。
 暴力温泉芸者(Violent Onsen Geisha)は当時このジャンルとしては異例のブームとなっていたノイズ音楽家・・・というよりも作家の中原昌也といった方が、今となっては通りがよかろう。当時「暴力温泉芸者の新譜といっても通用しそうな気がする」と書いたが、その後発売された新譜は毒入りポップソング。で、ネットで試聴できるのはこのポップソングのみという現況に至っては、この表現も時効を迎えてしまったと言わざるを得まい。(国外サイトにアップされている毒入りノイズな曲を紹介すれば話が通るのであろうが、どれも違法っぽいので止めておく。)
 銅金裕司はアート色を強めつつも、この「エコロジカルプラントロン」を使った展示を今も各地で行っている。さらに同じ事を金魚でも試みるなど、頼もしいイカレ学者ぶりを存分に発揮しているようだ。
 一方の藤枝守は元々湯浅譲二やMorton Feldman(モートン・フェルドマン)等に師事した経歴を持つバリバリの現代音楽の作曲家であり、今もこの方面で活躍中。だがなんと上記の本田ゆか(CIBO MATTO)と同じTZADIKレコードから3枚のアルバムをリリースしている。
 ↓遂に現代音楽家もサイトを持つ時代になったのか?藤枝守のCOOL!なオフィシャルサイト。
 http://www.fujiedamamoru.com
(2005.1.30)


[補足(2006.12.2)]
[1] 銅金裕司氏のウェブサイトを発見!ちょっとですが上記CDの試聴も出来ます。
http://wiki.livedoor.jp/dogane/d/FrontPage
[2] どこにしまったか分からなくなっていたCIBO MATTOのレコードもようやく発見。曲目リストとジャケット写真をアップしました。
[3] 暴力温泉芸者についての説明を補足。その他何ヶ所か修整しました。


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