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不乱苦雑記 frank zakki fz10
「イマジン」

 苔むした岩からしたたる幾重のしずく
 岩肌を流れつたってひとすじに
 そっと置かれた割竹つたい
 両手の中に流れ落つ

 広島県佐伯郡佐伯町浅原。山口県境の程近くにその涌き水はある。
 佐伯町指定史跡 岩船の水――
 「茶道上田流の祖上田宗筒(主水正重安1563-1650)は浅野家の家老であったが、元和から寛永にかけて領地であった浅原村のこの近くに隠棲し茶三昧の生活を送った。この水は彼が朝夕汲みに通ったものといわれている。」
 古びた立札はそう記す。
 地図にも無い。もちろん「日本名水百選」とか何とやらでもない。
 地元の人にしか知られていないのであろう。ここには時々来るのだが、今まで誰にも会ってない。
 今日もひとりだ・・・・・・

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 またひとつ戦争が始まってしまった。
 世界一豊かなアメリカが、世界一貧しいアフガンを爆撃する――
 いかに「報復」であろうとも、到底正当化出来る行為ではない。ブッシュ氏はいみじくも言った。「現代の十字軍」だと。800年前、キリスト教徒がイスラム教徒に暴虐を尽くした十字軍。しかし当時はヨーロッパの方が貧しかった。だが今回は違う。十字軍より遥かに劣る外道行為を、いま、アメリカとそれを支援す る国々は行っている。

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「十字軍」と「聖戦」――
いくらブッシュ氏が「失言」を撤回しようとも、イスラム教とキリスト教、そしてユダヤ教との対立がテロと戦争の根本的な原因であることに変わりはない。そしてこの対立を解消しない限り、いくら爆撃しようともテロは決して無くならない。
 対立は当事者が話し合って解決するしかない。中立な仲介者が用意したテーブルにつき、時間をかけて話し合うしかない。
 だが実はこの対立に無関係な国、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教、どれにもほとんど影響されない国は世界にいくつもない。タイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ブータン、ネパール、モンゴル、朝鮮民主主義人民共和国、そして我らが日本。これだけしかない。どの国が率先するべきか?・・・・・・疑う余地はないだろう。ましてや日本は、アメリカに原爆を落とされた唯一の国なのだ。
 実際、多くのイスラム国家は日本による仲介を求めている。今の日本がアメリカの言いなりなのも知っているはずだ。しかしそれでも、日本に仲介を求めてくる。日本しか仲介役はいないのだから。

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 涌き水のとなりには小さな庵がある。地元の青年会か有志かが建てたのか。壁の無い木造の庵。その中央にはテーブル型の囲炉裏。400年前の茶人を想い茶を立てよう――というものであろう。
 庵の周りは小さな庭園になっている。「東屋庭園岩船道」名前こそは立派だが、これも手作りの小さな庭園だ。
 すぐとなりには、これまた小さな野菜畑。トンボとチョウが戯れている。微笑ましい光景だ。

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 世界で一番宗教の無い国――
 世界の水準から見れば、日本人は限りなく無宗教に近い。「あなたの宗教は?」海外でよくぶつけられるこの質問に、胸を張って答えられる日本人はほとんどいないはずだ。
 なぜ我々には宗教が無いのか?なぜ我々は神に依存しないのか?ずっと不思議に思ってた。そして、やっと最近、答えを悟った。我々は自然と共生しているから神を必要としないのだ。我々にとっての神は自然なのだ。
 例えば俳句。「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」「古池や蛙飛び込む水の音」・・・・・・こんな詩が通用するのは日本だけであろう。だが、これが日本の宗教歌なのだ。だからこそ「季語」も存在する。
自然が宗教に勝る土地。それが日本なのだ。

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 もう一度涌き水に行く。手を差し出して、竹から落ちる水を飲む。
 となりに蜂が飛んできた。そして水溜りに舞い降りて、ゆっくり水を飲み始めた。そうか、キミもこの水を飲んだんだ。キミとオレの体の中には、いま、同じ水が流れてるんだね。

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 いま、日本がすべきこと。それは決してアメリカに媚びを売り、最貧国への攻撃に手を貸すことではない。世界で唯一の被爆国として、世界で唯一の無宗教国として、殺し合いの当事者たちを仲介のテーブルにつかせること。いま、日本がすべきことはこれしかない。

 「平和ボケ」と言う人がいるかもしれない。しかしオレは言い返したい。
見せかけだけの安全と豊さに目がくらみ、アメリカにすり寄るような国が支持されるのか?寄らば大樹の陰。そういうヤツがアナタのまわりで信用されるのか?・・・・・・違うだろう。
 日本が独自の態度をとり、日本にしか出来ない仲介に乗り出せば、誰もそれを非難できないはずだ。ブッシュ氏も、ビンラディン氏も、他のすべての地球人も。
 ここに始めて真の安全がもたらされる。
 その過程、今より日本は貧しくなるかもしれない。だが、我々は本来、そんな小さな物欲に目がくらむような欲ボケではなかったはずだ。物欲より精神を重んじる、誇り高き民族であったはずだ。

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 レノンは歌った。
 想像してみよう。あるのは空だけ。国なんかなく、殺し合いもなく、宗教もなく、世界中の人々が分かち 合って生きる平和な世の中を想像してみよう・・・と。
 しかしアメリカはこの歌を放送禁止にした。
 想像することをやめてしまった。

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 天空に蒸気の姿で漂う水は
 雨となりて大地に舞い降り
 土中深くにしみわたり
 幾千万の地層をくぐり
 再び地表に涌き上がり
 草木魚獣
 地球の全ての生命の
 からだの中をくぐり抜け
 川となり
 海となり
 そして再び蒸気となりて
 地表を離れ天に帰す

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 アフガン人も、日本人も、アメリカ人も、同じ地球の水を飲んでいる。
 いまあなたが飲んでいる水は、いつか誰かが飲んだ水。いつか誰かがまた飲む水。――全ての地球人は水でつながっている。過去の人も、未来の人も、全て等しく地球の水でつながっている。誰もがそう考えることが出来れば、人々は醜い殺し合いを止め、地球は平和になるに違いない。

 飲み水を得ることさえも困難なアフガン人。
 想像することをやめてしまったアメリカ人。
 全ての生命は水でつながっている
 ――簡単には伝わらないだろう。
 だがいつの日か、
 ブッシュ氏とビンラディン氏を庵に招き、
 この涌き水を飲みながら、
 水の循環を語りたい。
 きっと彼らも解ってくれる。
 同じ地球の水を飲む、同じ地球人なのだから。

 ・・・・・・帰りついでに原爆ドームも見てもらおう。


2001.10.19. 宮原 春萌(identity market 代表)
<「IM... identity market 32号」(2001.11.1.発行)より転載>

 

●解説●
 ツインタワーが崩れた瞬間は単なる悲劇を憂えるだけだったオレだが、その後のアメリカの変容ぶりには大きなショックを受けた。2次大戦後、曲がりなりにも世界が協力して築き上げてきた精神が、いかに脆いものであったかを痛感したからだ。そしてその崩壊が世界で最も豊かで、最も「自由」を標榜する国:アメリカで起きてしまったことは、『IM...identity market』の在り方を見直す契機ともなった。
 これを掲載した32号を最後にオレは『IM』を休刊させた。そして『IM』に関係するすべてのものからいったん距離を置き、これからの『IM』を模索していくことになる。(2004.2.26)

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