今回もやはりそうだった。
熊本に移り住んで10年。以前から薄々気付いていたのだが、今回の台風ではっきりと確信した。
台風が通っても熊本の天気は荒れないと。
九州を縦断した台風16号。各県の天気は大荒れとなり、洪水、家屋倒壊、崖崩れ・・・甚大な被害を方々にもたらし、犠牲者も出てしまった。
ところが、台風が真上を通り半日近く暴風域に入っていたにもかかわらず、熊本市内に降った雨は僅か52.5mm。1時間ではない。今日1日の総雨量がである。風はそれなりに吹いたが、これも熊本にしては・・・という程度。風の強い地方ならこのぐらいの風は普段から吹いている。いくら市街地とはいえ、ウチでは窓すら閉めずに済んだ。早朝から夕方にかけての通過だったのでずっと観察していたし、仕事で外にも出たのだが、台風らしい天候にはついぞ一度もならなかった。
一度や二度なら偶然と思える。だが台風が来るたびにこうなのだ。九州一帯の天候が荒れているにもかかわらず、熊本市周辺だけが穏やかなのだ。そしてこの現象は大雪の時なども同様に起こるのだ。
理由は恐らく熊本が古都だから・・・いや、その逆・・・災害が起こらない場所だから、古くから都市が栄えたのであろう。
3日前の日記で書いた通り、夏の熊本は九州で一番蒸し暑い。そして冬も平地に限れば一番寒い。だが熊本には、嵐も無ければ大雪も無い。干ばつも無ければれ冷害も無い。たいした地震も起こらない。多湿ゆえに大火事も起こらない。注意すべきは洪水のみ。しかもその洪水ですら、加藤清正から続く四百数十年の治水対策によって、現在はほぼ克服されていると言ってよいだろう。
普段は快適とは言えないが、大きな災害が起こらない。自然に対して今よりずっと非力だった昔の人にとって、災害が起こらないことは何よりも重要だったはずだ。だからココ熊本に街が興り、(今はその地位を福岡に譲ったものの)九州の中心都市として発展してきたに違いない。
いにしえびとが選びしところ、すなわち古都の重みそしてありがたみを思い知った、台風16号の通過であった。
---おまけ---
昨日の最高気温、29.4℃だったそうだ。全国最後の砦(?)としてヘンに注目されていた熊本の連続真夏日も、遂にストップしたということ。結局記録は63日。あと1日で観測史上単独2位になったらしいんだけどね。
まあ、これで涼しくなってくれれば記録なんてどうでもいいんだけど、どうせ今日からまた当分真夏日続きだろってのが悩ましいトコロ。
熊本の夏って往生際が悪いんだよね。やれやれ。
<補足(2004.9.1記)>
某氏より「今回の台風も99年の台風も運良く台風の中心部でしたから熊本市内は荒れなかっただけだと思います<中略>熊本は西から南西方面からやって来る(通過する)台風には極端に弱いです。過去に何度も酷い目にあってます」との指摘を受けた。<
BBS(2004.8.31)参照>
熊本が今まで受けてきた被害を軽んずる意図は全く無かったのだが、誤解を招いた原因は本文の説明不足にあると考えたので、ここに補足させて頂くことにした。
まず念のため以下の事を確認しておきたい。
1)取り上げているのは熊本市。しかも基本的に「古都」と呼べるエリアである事。
2)本文は全て「九州一帯」と比較しての話である事。
3)"人災"は一切考えに入れてない事。
上記の前提のもとで、私は「台風が通っても熊本の天気は荒れない」と書いた。あくまで「荒れない」であって、被害が無いとは言ってないつもりだったのだが、最後に「災害が起こらない」と書いてしまったのがちと軽率。「災害」の本来の意味からすれば間違いではないのだが、天変地異には及ばぬ被害どころか人災まで「災害」と表現してしまう最近の用例からすれば、誤解されても仕方がない。ここは「大きな災害」と書くか、または「天気が荒れない」にとどめておくべきであった。反省する。(これを受けて<後編>では「大きな災害」とした)
本文が「九州一帯」と比較しての話であることも伝わりにくかったようだ。私がまず言いたかったのは、他の都市と比較して熊本は天気が荒れないということ。今回の16号でも、熊本と同様に台風の中心が通った鹿児島県西部や八幡(北九州)、下関などと比べて、熊本は天気が荒れなかった。これは観測データにもはっきり出ている。
なぜこうなるのか?一番の要因は地形の違いであろう。簡単に言えば平野である事。しかも切り立った山脈が東西南北どちらにも無い事。この影響が大きいのだと思う。
そして、天気の荒れ具合と被害の大きさは単純に正比例するものではないということを、ここに確認しておきたい。
例えば鹿児島に来る台風は凄まじい。熱帯から来た台風が勢力を落とす前に上陸してくるので、とんでもない暴風雨となるのだ。もしあんな暴風雨が他の都市を襲ったら、壊滅的な被害が出るだろう。そういう台風が頻繁に上陸する鹿児島だから、壊滅せずに済んでいる。逆に天気が荒れる事が少ない都市では、さほどの荒れ具合でなくとも大きな被害が出てしまう場合もある。
天気が荒れないからといって、被害が出ないとは言い切れないのだ。
台風や豪雨による被害を幾度となく経験してきた事。特に戦後の混乱期には、大水害によって多くの犠牲者を出してしまった事。・・・これらは全国各地に散在する忌わしい記憶だ。もちろん熊本も例外ではないことは充分承知している。
だが、逆に熊本だけが特別なわけでもないので、本文では触れなかっただけである。触れなかっただけで、決して存在を無視したわけではないということを、最後に記しておく。
<参考資料>
『お天気Web九州』>アメダスデータ(2004、Japan Weather Association Kyushu[(財)日本気象協会九州支社]、2004年8月31日更新版)<URL:http://www.jwaq.gr.jp>
『朝日新聞2004年8月31日<西部本社第11版35面(熊本)>』(朝日新聞社、2004)