ウチの
「カラー印刷13,000円/6,500円」では熊本市内=手渡し、熊本市外=佐川急便と納品方法を分けている。いっけん乱暴とも思えるこのエリア分けだが、これはマーケットに即した自然なものであり、これで商売はスムースに回る。
実際、福岡や鹿児島などの遠方を除けば、ウチに来る発注の大部分が熊本市内からのもの。ショップやオフィスからの発注に限って言えばほとんどと言ってもよい。しかも発注が来るエリアは見事に熊本市の市域に重なる。つまり市内は隅々から発注が来るが、境界を一歩出ると途端に少なくなってしまう。
イベントのフライヤー等、個人からの注文はこの限りではない。周辺の市町村在住の方からの注文も多い。だがこの場合も受け渡し場所は市内(ウチの事務所か街中)、それが出来ない場合は佐川急便ということで自然と話がまとまる。
これは即ち、熊本都市圏の構造が熊本市内=商業エリア、周辺市町村=郊外エリアとハッキリと分かれており、さらにこの認識が一般にも浸透していることを意味している。そして市内の大部分は中心部から車で20分もあれば着いてしまうので、バイトと手分けすれば難なく配達できる。だからこそ市内=手渡し、市外=佐川急便というシンプルな取り決めでやっていけるのだ。
これが他の街だとそう簡単にはいかない。例えば門司、小倉、戸畑、八幡、若松の5市が合併して出来た北九州市は、一応小倉駅周辺が中心となってはいるものの、それぞれの街に郊外が付随した構造になっている。市民の意識にも5市の区分が色濃く残っており、対抗意識を持っている人も少なくない。こうなると事務所をどこに置くかだけでも一苦労。そして細長く分散する市街地をどうカバーしていくのか?考えるだに悩ましい。
これは極端な例だとしても、鹿児島市だったら熊本の2倍以上の面積をカバーしなければならないし、岡山市だったら隣の倉敷市より遠い「市内」をどう扱うかという問題も出てくる。百万人クラスの商圏人口を抱え、しかも「市内ならどこでもどうぞ」とスッパリ言い切れる熊本のような単純な街は、むしろ例外に属すると言ってよいだろう。
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熊本市は熊本城(=中心街)を中心とした半径8kmの円に近い形をしている。8kmは江戸時代の単位で言えばおよそ二里。これは宿場間の平均距離に等しく、当時の人にとっては休まず歩ける丁度の距離であったと思われる。逆に鉄道や車の発達によってはじめて気軽に中心街に行けるようになった地域は、ベッドタウン化が進んだ今も合併されず周辺市町村として残っている。つまり今の熊本市は江戸時代から縁が深かった地域:「♪あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ、隈本さ」の「隈本(当時はこう表記した)」が示していたであろう地域によって成り立っており、無理のない自然な市域を持っていると言えよう。
ただしこれはケガの功名。熊本官民共通の悪癖:借金癖が周辺市町村に嫌われ、他の地方都市のような大規模な合併を進めることが出来なかった(※1)結果である。このことは人口密度という形で数字にも表れており、熊本市の人口密度は3大都市圏を除けば福岡市に次いで全国2位(※2)。近接都市どころか郊外すら含まれていないのだから、高密度になるのも当然だ。
人口面では周辺10町のうち1~2町と合併するだけで政令指定都市の要件を満たすとあって行政レベルではそれなりに努力をしていたようだが、借金まみれの男の将来を信じて結婚するようなバカなオンナはいなかった。まあ、合併したところで借金癖を直さぬ限り政令指定都市にはなれないし、そもそも外への関心を持たぬ熊本市民は政令指定都市への願望も持っていない。たとえ結婚出来たとしても嫁サンを不幸にするだけ。出来なくて良かったと考えるべきであろう。
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区制がないことには不便を感じるものの、無理のない自然な市域を持っている熊本市。これからも政令指定都市になれない全国最大の地方都市であり続けるのもまた良かろう。それが市民の生活に一番合っているのだから。
ともかく熊本市が無理な合併をしてこなかったので、熊本の行政区分は人々の生活に見合ったものになった。そしてこのオカゲでオレも商売がやりやすい。有難いことだと感謝しておくべきであろう。
ただし官民共々、借金癖は直さんとね。金にだらしないのは結婚云々以前の問題だけん・・・
(※1)もちろん全国の他の市と同様、明治の市町村制施行(1889年)によって誕生した最初の「熊本市」は今よりずっと小さなものであった。現在の熊本市が形造られたのは「昭和の大合併」が全国で行われた1950年代。その後1991年にも、(いずれも小規模ではあったものの)周辺4町村との合併を果たしている。この時に合併されたのは主に江戸時代に新田として埋め立てられた有明海沿岸地域であり、「熊本城から二里」より半里ほど遠い地域である。
(※2)対象は政令指定都市、中核市及び特例市(基準:人口20万人以上)88市。2004年10月1日現在。
<参考資料>
『熊本市』>熊本市のあらまし(2001、Kumamoto City[熊本市]、2005年3月26日掲載版)[http://www.city.kumamoto.kumamoto.jp]
『熊本市2004年市勢要覧』(WEB版)>熊本市のあゆみ(著作権者未詳、2005年3月26日掲載版)[http://www.city.kumamoto.kumamoto.jp/aramashi/toukei/youran2004]
『都道府県市区町村』>市区町村プロフィール>政令指定都市・中核市・特例市一覧(2004-2005、M.Higashide、2005年3月2日掲載版)[http://glin.jp]