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frank zakki fz4
「坂なき街」 |
オレの故郷は坂の街
どこへ行くにも上り下り
行きがラクなら帰りはキツイ
行きがキツけりゃ帰りはスイスイ
上りと下りはワンセット
どちらも必ずやってくる
因果応報、自業自得のアップダウン
Z
長崎は坂の街だ。
多いなんてもんじゃない。
街全体がうねってる。
家並みが縦に広がっている。
ヘビのごとく這い登る細い路地。
そこを老婆がトボトボ歩く。
この長崎と比べれば、故郷の坂などオモチャに過ぎない。
それでも同じ坂育ち。ついでに同じ港町。
己と通じる何かを感じた。坂の街行く人々に。
Z
今回、identity marketの編集で大きな困難に遭遇した。集まった作品のテーマが「UP/DOWN」ではなく「上/下」になってしまっている。テーマに沿わない作品は毎回1、2本ある。ところが今回は掲載できなかった作品を含めて半数近くが「上/下」だった。こんなことは5年目にして初めての、前代未聞の出来事だ。
“テーマ外”とボツにするのは簡単だ。だが、いくら特殊な状況だとしても半数を占めれば立派な現象だ。元イベンターの直感が働いた。これは日本人の病につながる根深い現象に違いない。――急いで編集の舵を切る。お盆明けての大旋回。“テーマ外”では落とさない。スタッフ集めて再検証。面割・進行も組み直し。
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二日酔いでアタマが痛い。昨日は旧友の家で飲んでる途中から記憶がない。目が覚めたら自分のベッドで寝ていた。後になって判ったことなのだが、早朝5時という非常識な時間にトモダチのコに電話をかけていたらしい。しかもエッチ話。しかも1時間。もちろん完全アッパー状態。
「いろーんなコト言ってたよ。楽しかったわよー。ふふっ。」
アッパーなオレの責任をとるのは、もちろんノーマル静止状態のオレだ。二日酔いでダウナー入ったアタマでも、そのくらいは判断できる。次に会う時は覚悟を決めねばなるまい。
そういえばSEXは究極の「UP/DOWN」やねー。
Z
遥か昔の学生時代、オレは学校NO.1から最下位に成績を落としたことがある。自業自得の極みとはいえ、さすがにオレも落ち込んだ。ところがオフクロ「絵描きになればー」といつもの調子。ダチの間じゃ「変わったヤツ」と一躍注目。悩んだオレがバカだった。
学問は三流と悟らされ、オレはアートにのめりこんだ。狂ったように詩や絵を描いて、貪るように音楽を聴いた。成績の代わりにUPする何かが欲しかった。今から見ればそれだけのこと。
めぐりめぐって十数年。因果応報。あのときの積み重ねがなければ、今や生活すらしていけない。
そんなオレがここにいる。
Z
最近とんでもない話を聞いた。
今の小学校の運動会では、「徒競争」をしないのだという。理由は簡単。子供に競争させたくないから。子供に順位を付けたくないから。ジョギンクよろしく、みんなで走ってみんなでゴール!ビデオパパ向けパフォーマンス大会。そりゃあコドモはシラケるさ。
1等賞は赤いリボン。―いつもは威張るセンコーが、腰を屈めて付けてくれ、やったぜどうだと自慢げに、胸を反らして校庭を歩く。勉強出来ないヤツらにとっちゃあ、年に一度の晴れ舞台。それをツブしておきながら、何が「心豊かな人間の育成」だ。何が「個性教育の推進」だ。
競争させない「平和主義」
格差を隠す「平等主義」
誰がいくら隠そうとも、「上/下」の格差はあらゆるジャンルに存在する。だからこそ、そこに「下」から「上」に行こうとする上昇志向が生まれ、そしてそこに「UP/DOWN」の競争が始まる。
「UP/DOWN」は「上/下」の格差を越えるも
の。
そして最後は「上/下」の格差を超えるもの。
王子の地位を自ら捨てて、悟りを開いたブッダのように。
「UP/DOWN」は全ての人間が持つチャンスであり活力である。人間の存在意義そのものと言ってもいい。ところが「上」に行こうとする上昇志向が欠落している。今の日本の最大の病だ。だから「UP/DOWN」が冷遇されることになる。
現実の格差をひた隠す、見せかけだけの悪平等。
競争のチャンスを与えない、人権無視の不平等。
そして未来を悲観することしか能の無いオトナ達。
上昇志向のあるまともなコドモがキレていき、
上昇志向のない悲しいコドモが生き残る。
「UP/DOWN」を教育から排除した当然の結末だ。
いま必要なのはチャンスを増やすこと。いろんなジャンルで競争させること。クラスの全員がそれぞれ違ったNO.1を持っている。それぐらい多くの競争をさせていき、多くの「UP/DOWN」を与えるべきだ。
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オレの故郷は坂の街
どこへ行くにも上り下り
どちらも必ずやってくる
因果応報、自業自得のアップダウン
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酔って電話をかけたコも、そういゃ長崎出身だったっけ。
2000.8.22. 宮原 春萌(identity market 代表)
<「IM... identity market 25号」(2000.9.1.発行)より転載>
●解説● 「UP/DOWN」は「上がる/下がる」であって決して「上/下」ではない。だがこれを「上/下」と捉えてしまうのは上昇志向が欠けているから
だ。・・・・・・という強引な論理で書かれたこの文章。ちと強引すぎたかなとは思う。だが、「UP」する意欲も、「DOWN」を恐れぬ勇気も失ったこと。これが日本の低迷の原因であるという考えは、今も全く変わっていない。(2004.2.24)
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